話の流れの中で、重要性が低いと考え省いた部分について補足する。
「エルの天秤」で仮面の男が金を必要としていた理由だが、少女の治療費だった可能性が高い。
「エルの楽園[→side:E→]」において、「少女が小さく 咳をする度 胸の痛みが 春を遠ざける」とある。
これは少女になんらかの病気あるいは怪我といった、問題が生じていることを示している。
それだけでは説得力に欠けるが、男の少女の暮らす家は薄暗く、薄汚い場所であることが同曲の歌詞にある。
また、少女はぼろい毛布を使用しており、膝は痩せている、ともある。
つまり、家自体やその内装、あるいは食費に金が使われているとは考えにくいのだ。
他の可能性としては、少女が誕生日に欲しがった絵本くらいか。
実は絵本は高級品だったという可能性は、絶対にありえないとは言い切れない。
しかし、「エルの天秤」における記述では、天秤は傾き続けてゆく、つまりコストが増大し続けるものであるとされている。
誕生日プレゼントがそれに当たるとは考えにくい。
以上のことから、仮面の男が稼いだ金は少女の治療費に使用されていたのだろう。
また、少女が病気かなにかであるとすれば、「エルの楽園[→side:E→]」における問いかけや、「エルの楽園[→side:A→]」の結末にも説得力が出る。
「その楽園では体はもう痛くないの?」とは、男の負傷以外に、自身の体の苦しさのことも指すことになる。
そして、少女の死因は病状の悪化と考えることができる。
仮面の男の娘の名前だが、これは「エリス」が本名だと思う。
作中2回ほど「エル」と呼ばれているが、どちらも娘に呼びかけているしこれは愛称と考えるべきだろう。
Arkなど5曲の冒頭で、独り言のようにつぶやいている時に出た名前が本名だと思う。
「エルの肖像」の肖像のタイトルに出てくる名前と一致することや、生まれてくる子の名前を遠い昔に決めてあると言っていた「エルの楽園[→side:E→]」のセリフからも、可能性は高い。
とはいえ断定できるものではなく、「エル」と「エリス」、異なる2人の少女が存在する可能性も否定はできないと思うが。
「エルの天秤」の男が仮面を着けている理由についても触れておくべきか。
断定はできないが、男は様々な悪事に手を染めているため、人前では仮面を着けざるを得なかった可能性が高い。
自宅でも仮面を着けていたのかどうか、これは分からない。
しかし、舞台に自宅が含まれる「エルの楽園[→side:E→]」において、「仮面」という言葉は出てこないため、自宅では外していた可能性は十分ある。
Arkなど5曲で仮面を着けている理由だが、これも分からない。
地獄ではその人物が最もふさわしい姿になる、仮面の男で言えば仮面を着けている姿、とか考えられるが、完全に憶測である。
もし生前、自宅でも仮面を着けていたなら、娘が自分を見た時にすぐ父親だと分かるように着けている可能性も考えられるが、やはりこれも憶測である。
「エルの絵本【魔女とラフレンツェ】」と「エルの絵本【笛吹き男とパレード】」を時系列に含めなかった理由についても書いておこう。
その理由は、この2曲がタイトルにある通り「絵本」だからである。
絵本というのは作中一度だけ登場する。
補足で少し触れたが、「エルの楽園[→side:E→]」で少女が誕生日に欲しがったプレゼントである。
この時の音声は音が歪んでいたり、父親と思われる人物の声が声色を変えた少女の声になっていたりと不自然な点があることから、時系列順ではない、少女の回想のようなものである可能性がある。
しかし、会話自体は過去に実際あったとすれば、「エルの天秤」の最後「もうすぐ約束した娘の──」、これが誕生日である可能性が生まれる。
それだと、帰宅後死亡するのだから、絵本を読む時間などなかったのではないか、と思うかもしれない。
絵本を読む描写は登場しないし、おそらく誕生日プレゼントの絵本は読まれなかった、私もそう思う。
しかし、これは推測だが少女が誕生日プレゼントに絵本を欲しがったのは、これが初めてなのだろうか。
少女の具体的な年齢は不明だが、少なくとも言葉は喋ることができる。
少女が体調を崩したのがいつからなのか、これも不明だが、仮面の男が金のために様々な悪事に手を染める必要があったことから、最近のことではないだろう。
病弱な少女が昨年、あるいはそれ以前の誕生日にも絵本を欲していたとしても違和感はない。
それならば、死亡するまでの間に絵本を読むことは十分に可能と言える。
そもそも、絵本が読まれたかどうか、これは重要ではない。
少女が欲しがったと思われる絵本の内容が、時系列上の出来事に類似した(魔女とラフレンツェ)、あるいはつながりそうな(笛吹き男とパレード)内容。
現時点では分からなくとも、このことには重要な意味があると考える。
絵本を選ぶのは少女ではなく父親である男であるため、偶然である可能性は否定できないが。
2曲を除外した理由は、絵本であるということ以外にもある。
【魔女とラフレンツェ】の方は、「エルの肖像」で触れた通り、展開が少年の考えた計画に似ている。
しかしながら、絵本に登場する麗しき青年はラフレンツェと肉体関係を持った後か、あるいはその最中なのかは不明だが、歌詞では以下のことをしている。
「彼は手探りで闇に繋がれた 獣の檻を外して 少女の胎内に繋がれた 冥府の底へ堕りてゆく……」
彼は一体は何をしているんだ?
仮に麗しき青年が「エルの肖像」の少年と同一人物だったとして、そのようなことをする理由があるのだろうか。
その後の展開、乙女の手を引いて暗闇の階段を駆け上がって来る、というところから、冥府の底から誰か乙女を連れて来ているのは分かる。
この時の少年に、誰か連れてくる理由がある人物と言えば肖像画の少女だが、果たしてそれは少年が求めたものだろうか。
少年は肖像画の少女に恋をしたわけだが、これはモデルとなった少女本人に恋をしたわけではないはずだ。
少年は肖像画の少女を理想とし、追い求めるわけだが、その元となった理想というのは絵である。
しかし、その理想が単に見た目だけを指すとは言えないだろう。
こんなに美しい少女なら、きっとかわいらしいものが好きで、いつも笑顔で、それでいて自分にべた惚れならいいなぁ…などなど、そんな都合のいいことを考え、その結果恋に落ちたと考えても不思議はない。
それで、冥府の底へ堕りて行って、モデルとなった少女を見つけたはいいが、自分の都合のいい理想とはかけ離れていたらどうするのか。
というか、完全に一致することなどまずないだろう。
少年が肖像画以外に、例えば日記のようなものを見つけて性格などを把握してたなら分からんでもないが、そのようなものは登場していない。
よって、肖像画のモデルの少女本人が少年の理想だったとは考えにくいのだ。
それに、本人を見つけたところでどうするんだろう、というのもある。
作中に具体的に登場しないが、なんらかの方法で自分の娘として生まれさせる方法があるのかもしれない。
だとしても、前述の理由からいまいち「エルの肖像」の少年の計画とは微妙に違うように思うのだ。
第一、そんな不審な行動を取って、《鍵穴》の女性に怪しまれたらどうするのか。
実際、ラフレンツェは裏切りの代償に残酷な呪いとやらを歌っている。
完全に計画が露呈して、生まれた少女を渡さない、あるいはそんな技術があるかは不明だが中絶などされてしまったらどうするのか。
リスクが高いばかりで、得るものがないと思う。
もし「エルの肖像」の少年だったなら、目的の少女が生まれるまでは良き夫を演じるはずだ。
そして目的の少女が生まれたら、妻と円満に別れた上で娘を引き取るのか、あるいは妻を殺してしまうのか、それは不明だがそのような感じに動くだろう。
【魔女とラフレンツェ】に登場する麗しき青年は、「エルの肖像」の少年と同一人物とは考えにくい。
そのため、時系列に組み込むのは難しいと考えた。
【笛吹き男とパレード】の方は、時系列で言えばArk、Baroque、Yield、Sacrifice、StarDustの後だと考えられる。
各曲に登場する少女がパレードに加わっていると思われるセリフがあるためだ。
パレードを先導しているのはアビスと呼ばれる仮面の男であり、この人物が「エルの天秤」に登場する仮面の男と同一人物である可能性はある。
しかし、パレードの目的が分からない。
パレードを先導しているのが「エルの天秤」に登場する仮面の男と同一人物だと仮定すれば、一応辻褄は合う。
死後、最愛の娘と再会できたとしたら、娘を喜ばせるために行う可能性があるからだ。
男の肩に少女が座って歌っているそうなので、ありえるとするならこの少女がそうだろう。
だが、仮面の男が娘と再会した場面は見当たらない。
仮定に仮定を重ねてしまっては、憶測の域を出ない。
大体、仮面の男の娘は罪を犯していないと思われる都合上、存在するかどうかは不明だが天国にいる可能性の方が高いのだ。
時系列に組み込むなら一番最後だろうが、いまいち確証がない。
時系列に組込まなかったのはそのためだ。