では、私が考える時系列に沿って話の流れを追う。
まず「エルの肖像」。
深い森の廃屋にて少年は少女の肖像画を見つけ、彼は病的に白いその少女に恋をする。
そして、肖像画の署名から少女の名前が「エリス」であることを知る。
これは推測だが、少年は肖像画の少女に恋をしたはいいものの、その少女本人と結ばれる可能性はまずないと思ったはずだ。
肖像画を見つけたのは深い森の廃屋。
肖像画が描かれた時点で8歳の少女が、今もその年齢である可能性は低い、どころか今も生きているかどうかからして怪しい。
というか写真ならまだしも肖像画、つまり絵である。
【最愛の娘エリスの8つの誕生日に】というタイトルの想定で描かれた、架空の人物である可能性も否定できない。
仮に写真だったところで、フォトショによる加工あるいは女装である可能性も…話が逸れた。
とにかく、自分が恋した理想の少女とどうしても結ばれたい少年は考えた。
少女と似た容姿を持つ女性に娘を産ませ、その娘と結ばれる、という方法を。
はっきり言って頭のネジが数本飛んでいそうな考え方だが、根拠はいくつかある。
この曲の歌詞には、やがて少年は《理想》を求め、《鍵穴》を見つけ、《楽園》を求め、《少女》を見つけるだろう、とある。
また「娘もまた母になり 娘を産むのならば」という歌詞も存在する。
それを組み合わせれば、少年は後にそのような行動に出るだろうことが分かる。
これだけでは少々説得力に欠けるが、他の曲にも手掛かりはある。
1つは「エルの楽園[→side:E→]」の冒頭のセリフの内容だ。
生涯彼女を愛することはないが、その存在は特別な意味を持つ、生まれてくる子の名前は遠い昔に決めてある。
これは、《鍵穴》を見つけた、つまり理想の少女に似た容姿の女性と結婚した段階まで計画が進んだ時のセリフと考えられる。
彼女を愛することはないと言っている辺り、理想の少女以外眼中にないと思われる。
その存在の特別な意味とはつまり、理想の少女を産んでくれることを指す。
生まれてくる子の名前について話しているところからして、妻となったその女性が妊娠するところまで計画は進んでいるようだ。
もう1つは「エルの絵本【魔女とラフレンツェ】」の内容。
大まかに言えば、ラフレンツェと麗しき少年が惹かれ合い、結ばれるも、実は少年の目的は別にあり、結ばれること自体が目的のための手段に過ぎなかった、というものだ。
「エルの肖像」の少年が取ったと思われる行動と似ている。
この曲は時系列に存在しないんじゃなかったのかと思うかもしれないが、それについては次のページで補足する。
そうして、少年は狂気の計画を実行し、「エリス」という名の理想の少女を手に入れた。
まだ1曲目だというのに、妙に長くなってしまった。
これも少年が変態なのが悪い。
次に「エルの天秤」。
金を必要とする仮面の男が、様々な悪事に手を染めている。
あるカップルの駆け落ちを阻止し、報酬として伯爵から金貨を受け取る。
その後、女性に背後から刺され、倒れる。
この曲だけで考えられることは特にない。
「エルの肖像」との直接的なつながりを示すものもない。
仮面の男が金を必要としている理由も、この曲だけでは不明。
そして「エルの楽園[→side:E→]」(E)、「エルの楽園[→side:A→]」(A)、44番目のトラック(44)。
流血しながら這い擦る男が、扉を開ける。(E)
誰かが呼ぶ声を聞き、少女が目を覚ます。(A)
男「ただいま、エル」少女「おかえりなさい、パパ」(44)
少女は誰かが泣いているのを聞く。(A)
少女とお父様が、「楽園」について談笑する。(E)
少女の傍らに屍体が横たわる。(E)
少女は眠るように、笑みを浮かべながら死ぬ。(A)
2曲+αの断片的な内容をくっつけたため、少々長くなってしまった。
「エルの楽園[→side:E→]」の最初、「白い大地に」から始まる部分について。
これは男が流血しており、その流血はなんらかの罪によるもの、と読み取れる。
「エルの天秤」の終盤、仮面の男がこれまでの悪事の報いを受けて負傷した、という展開と一致する。
また、「エルの天秤」で仮面の男は伯爵から金貨を受け取り、「エルの楽園[→side:E→]」の男も金貨を握り締めている点も一致する。
この2点から、この2曲は直接つながっていると考えられる。
そして、「扉に手を掛けた」ところで場面が移る。
次に、「少女が小さく」から始まる部分について。
色々気になる部分はあるが、ここで展開上重要なのは「扉は開かれた」ところである。
前の場面からつなげて考えれば、男は負傷しながらも自宅まで辿り着き中に入った、自宅にいた少女もそれを見ていた、となる。
そして、そのような場面は44番目のトラックにも登場する。
扉の開く音、ただいまと告げる男、おかえりなさいと返す少女。
他の根拠としては、44番目のトラックで流れる風の音がある。
扉を開く前から聞こえているが、扉が開くとより強くなる風の音。
「エルの楽園[→side:E→]」で、男が這い擦っていたのは「白い大地」、つまり一面雪で覆われていたと考えられる。
そこが吹雪いていたと考えれば、辻褄が合うだろう。
ちなみに似た場所は「エルの肖像」にも登場しているが、同じ場所かどうかは断定できない。
おそらく、それはあまり重要ではない。
「エルの楽園[→side:A→]」とのつながりを示す手掛かりだが、2つある。
1つは冒頭の歌詞「誰かの呼ぶ声が聞こえた 少女はそれで目を覚ます」だ。
「エルの楽園[→side:E→]」の「少女が小さく」から始まる部分で、はっきり書かれているわけではないが少女は扉が開くまで眠っていたと解釈できる記述がある。
「誰かの呼ぶ声」とは、つまり44番目のトラックにある男の声である。
「心地よい風に抱かれて 澄んだ空へと舞い上がる」とある辺り、少女にとってその声は心地良く目覚められる人の声と分かる。
もう1つの手掛かりはその直後の歌詞「誰かがね…泣いているの…」だ。
少女が誰かの泣き声を聞く可能性がある場面、それは男が帰宅した後だ。
男は帰宅するも負傷している。
そのため、泣く可能性がある人物が2人いる。
負傷した男と、泣き声を聞いた少女自身である。
男は傷が致命傷であると悟っており、少女を残して死んでしまうだろうこと、その後の少女の運命を憂いて泣く可能性がある。
少女も、父親が負傷していること自体が泣く原因になると言えるだろう。
この後の展開は少々奇妙だが、少女とお父様、つまり負傷した男との「楽園」についての談笑である。
自らの死を悟った男が少女と今後についての話をしているうちに、そのような話になったのかもしれない。
ここで言う「楽園」が何を指すのかは、「エルの楽園[→side:E→]」における少女の問いかけから推測できる。
花が咲き、鳥が歌い、体や心が痛くない可能性があり、ずっと一緒にいられる可能性がある場所。
おそらく死後の世界のことだろう。
花が咲き鳥が歌うという楽しげな雰囲気からして、いわゆる「天国」だと思われる。
少女の「ずっと一緒にいられるの?」という問いかけは、男にとっては残酷なものだっただろう。
様々な悪事を働いた男はおそらく地獄行きになると思われ、少女と一緒にはいられないからだ。
それでも、少女の期待に応えるために男は「そうだよ」と答えざるを得ない。
もしかしたら、このことも前述の男が泣く原因になっているかもしれない。
そして、談笑をしていた男もついに力尽き、少女の傍らに屍体が横たわる。
その後、少女も「安らぎの眠りを求め 笑顔で堕ちてゆく…」、つまりは笑みを浮かべながら眠るように死亡する。
…ここまで書いて、「エルの天秤」で「エルの肖像」とのつながりを示していなかったのを思い出した。
「エルの肖像」で少し触れた、「エルの楽園[→side:E→]」冒頭のセリフ。
これが同曲に登場する男のセリフであるとするなら、その男は「エルの肖像」の少年と同一人物である可能性がある。
たまたま同じことをしていた別の人物である可能性はあるが、非道な計画を思いつく人物がほいほいいてたまるものか。
最後にArk、Baroque、Yield、Sacrifice、StarDust。
仮面の男は死してなお最愛の娘を探し求める。
そして、様々な少女にその面影を見てはこうつぶやく。
「彼女こそ、私のエリスなのだろうか」
全体の流れを簡潔にまとめると以下のようになる。
ここまで長々と書いたが、少年の頭が少々アレなのを除けばそれほど突飛ではないと思う。
実のところ、私としてはもっと別の解釈でも全然構わないのだ。
このようにまとめただけで話が済めば、この考察を作ることはなかっただろう。
この考察を作るきっかけになったのは、ここまでまとめたところで1つ、大きな疑問が生じたためだ。
次のページで話の流れの補足をしてから、その大きな疑問についての話に入る。