それでは、これまでの考察を元に話の流れをまとめ直す。
黒い瞳孔の少年が、深い森の廃屋で肖像画を見つけ、描かれていた病的に白い少女、エリスに恋をする。
少年は理想の少女と結ばれるために、少女に容姿が似ている女性と結婚し、娘を産ませる。
そうしてかつて少年だった男は恋焦がれた理想の少女を手に入れ、ついには彼女と2人だけの家、男にとっての楽園と呼べる場所をも手に入れる。
しかし、男の夢想は残酷な現実となっていた。
娘の体は弱く、生き続けるためには高額の治療費がかかる治療を続ける必要だったのだ。
娘の治療費を稼ぐため、男は仮面を着け様々な悪事に手を染める。
いかに自らが望んだ理想の少女のためとはいえ、罪悪感は積もっていく。
男の楽園は、娘のために罪を重ね続ける、永遠の奈落となっていた。
そして悪事を重ねた末に、男は恨みからか背後から刺され、瀕死の重傷を負う。
男は自分の死期を悟るが、まだ息絶えるわけにはいかなかった。
今日は娘の誕生日で、絵本をプレゼントする約束をしていた。
それに、稼いだ金があれば娘はわずかでも生き長らえることができるはずである。
そのためなんとしても家に帰る必要があり、男は最後の力を振り絞って娘が待つ家へと帰った。
帰宅した男を待っていたのは、いつもと変わらない娘だった。
瀕死の重傷を負っている男に対し、いつもと同じように、あるいはそれ以上にうれしそうに微笑む彼女。
その時点で異様さを感じていた男だったが、会話をする内に彼女は自分と一緒に死ぬ気なのだと悟り、号泣してしまう。
それでも彼女は、最期までうれしそうに微笑んでいた。
気がついた時、男は見覚えがない場所にいた。
周囲の状況から、自分はすでに死亡しており、いわゆる地獄のような場所にいることを悟る。
だが男にとっては、おそらく天国へと昇った娘と引き離されてしまったことが何よりも苦痛だった。
なんとしても娘と再会したい男は、娘の生まれ変わりの可能性に賭けた。
死の間際に見た彼女の異様さから、生まれ変わったなら自分と同じように堕ちてくるはずと考え、様々な少女に娘の面影を見る。
娘が自分と一緒に堕ちてきていることに、気付きもしないままに。
こんな感じである。
最後、エルと再会できたとしてもいいのだが、「エルの楽園【笛吹き男とパレード】」にそこまでの描写はないのでやめておいた。
男の肩に座っているのがエルだとすれば再会できているのではと思うかもしれないが、男が肩に座っている少女を認識できている描写がない。
死後、地獄、という状況下において、どれだけ思考能力が残っているものなのか分からない。
生まれ変わって堕ちてくる娘を探すという妄念に取り憑かれて、すでに堕ちてきている娘本人には気付いていない可能性もありそうである。
その割には、やぁ友よ!とかやたらいきいきとしゃべってるけど。
エルから見た話の流れについてもまとめておく。
永遠に繰り返される生と死の間を、少女は彷徨っていた。
かつては常人と同じように生きていた少女には、これが異常なことだと分かっていたが、どうすることもできなかった。
生きている間に原因を調べようにも、脆弱な肉体が枷となる。
生と死を繰り返す内に精神が歪んでいくのを感じていたが、やはり少女にはどうすることもできなかった。
少女の脆弱な肉体と歪んだ精神は、いつも他者から忌避された。
それは身内でも同様である。
容姿こそ優れていたが、周囲からすればそれも逆に不気味に映っていたようだった。
そんな少女の唯一の願いは、誰かとずっと一緒に楽しく暮らすことだった。
ささやかな願いだが、脆弱な肉体を抱える現実では叶うことはなく、それは死後の世界でしか叶わないことを意味していた。
やがて少女の現実は、そんなささやかな願いを夢見るだけの、幽幻な夢想と化していた。
そして少女に、幾度目かの転機が訪れる。
少女を求め、愛してくれる男が現れたのだ。
その男は自身の父親だったが、少女には些細なことだった。
男は頻繁に外出していた。
少女の治療費を稼ぐためであり、仕方がないことである。
男と一緒にいられないことは不満だったが、止められるはずもなかった。
少女は辛抱強く待ち続けた。
ついに少女が待ち続けた瞬間が訪れた。
男が今にも死んでしまいそうな、瀕死の状態で帰宅したのだ。
少女は喜びで飛び上がりそうになるのを抑え、いつも通り男を迎えた。
喜びの余り、少し笑みがこぼれてしまったかもしれない。
これで、やっと。
やっと死ねる。
お揃いね私達、これでお揃いね、あぁ幸せ。
この世は所詮、楽園の代用品でしかないのだもの。
さぁ、楽園へ還りましょう、お父様。
男の死を見届けた後、いよいよ少女が待ち望んだ自身の死が訪れた。
その間際、かつて自身を愛する人がいない地獄へと連れ去った天使が手を差し出してくるのを感じたが、少女は気にも留めなかった。
もうそんなものに騙されたりはしない。
そして少女は男の後を追うように、奈落へと堕ちてゆく。
繰り返される生と死を止めることなどできない。
今後も永遠に繰り返されていくのだろう。
それでも今回の少女の奈落は、また生まれてしまうまでの間、束の間の楽園となった。
両方とも「エルの楽園[→side:E→]」の歌詞に出てくる表現を交えてまとめたが、どうだっただろうか。
男の夢想がどうとかの辺りである。
この解釈なら、それらもすんなりつながっていい感じだと思う。