それでは前ページの続き。
前ページで、エルの不可解な知識の出所については解決した。
生まれ変わりが存在する世界で、エルの記憶は生まれ変わってもリセットされていない。
それならば、不可解な知識を持っている、もしくはそのような知識を持っているかのような言動が可能である。
では行動についてはどうだろうか。
瀕死の仮面の男に微笑んだり、愛する仮面の男がいるだろうからと自分から地獄に堕ちてみたり。
これらも全て、生まれ変わりの際に記憶がリセットされていないのが原因なのだろうか。
後者はともかく、前者は直接的につながらないようにも見える。
先に結論を言ってしまえば、その通りである。
他の原因などありはしない。
察しがついている人もいるかもしれないが、具体的に説明する。
エルは生まれ変わりの際に記憶がリセットされていない。
根本的な異常はこれ1つである。
しかし作中において、エルは体が弱い。
仮に、それが今回だけのことではなかったとする。
生まれてくる度に弱い体で生まれてしまうのだ。
だが、死後はそのような肉体から解放される。
そして、生まれ変わりでリセットされない記憶。
これらによって、エルにもう1つの異常が生じていると考えられる。
多くの人にとって、死と言えば人生の終わりとか、そういうイメージのはずだ。
しかしエルにとっては違う。
エルにとっての死とは、ただ現世から死後の世界に行く、それだけだ。
ただの移動なのである。
経験からそのことを知っているのだ。
誕生も、エルにとっては人生の始まりではない。
死後の世界から現世に行くだけ。
やはりただの移動である。
こう考えると、エルにとっては現世と死後の世界、どちらも大差ないのではないだろうか。
2つの世界を行ったり来たりしているだけ、という感覚なのだ。
死後の世界についての詳細は不明なので、例えば地獄ではなんらかの責め苦があったりするのかもしれないが。
しかし、エルは2つの世界を対等なものとして見ているだろうか。
現世においては、弱い体に縛られ自由に行動できない。
一方、死後の世界ではそんな肉体から解放される。
エルにとって、現世よりも死後の世界の方が暮らしやすい世界なのではないだろうか。
肉体以外にも、例えば仮面の男の件もある。
現世ではエルの体のために金を稼ぐ必要があり、悪事を働いていた。
そのために数日家に帰ってこない、なんてことも珍しくないのではないだろうか。
その間、エルは家で一人ぼっちである。
死後の世界では仮面の男がそんなことをする必要はなく、再会できたとすれば文字通り「ずっと一緒にいられる」のだ。
これらのことからエルに生じていると考えられること、それは死生観の逆転である。
エルにとって死後の世界こそが望むものなのだ。
片や、自由に動けず、愛する人ともなかなか会えない世界。
片や、自由に動け、愛する人とずっと一緒にいられる世界。
その点だけで判断するなら、エルに限らず誰でも後者の世界の方がいいのではないだろうか。
そのように考えれば、瀕死で帰宅した仮面の男に微笑んだことも納得が行く。
今にも息絶えてしまいそうな仮面の男、これはエルが待ち望んだものなのだ。
自身は治療をやめれば程なく死亡し死後の世界に行ける。
だが、それでは愛する人とは離れ離れになってしまう。
不自由な肉体からは解放されるものの、これでは片手落ちである。
その愛する人が、瀕死で目の前にいる。
それなら、その死を見届けてから自身も死ねば、おそらく死後の世界で一緒にいられる時間は最も長くなる。
エルにとって最良の展開と言えるだろう。
だからこそ、エルは瀕死の仮面の男を見て、つい微笑んでしまったのだ。
死後の展開を知っている以上、おそらくエルは死の恐怖なんてものを持ち合わせてはいない。
「エルの楽園[→side:A→]」でエルが聴いた誰かの泣き声、これは仮面の男のものだろう。
エルには自身の、もしくは仮面の男の死の際に、泣く理由が全くないからだ。
同様に、地獄へ堕ちる恐怖についても、そんなもの全く感じてはいないだろう。
特に今回の場合、愛する人とほぼ同時に堕ちていけるのだ。
「笑顔で堕ちてゆく」のも当然と言える。
これでエルの抱えているものについての説明は以上である。
まとめると以下の通りだ。
それこそがエルである。
エルがそのような少女であるとすれば、エル自身や仮面の男の不可解な点が矛盾なくつながるはずである。
これは様々な情報を総合した推測であり、確かな根拠があるわけではない。
しかし、それは仕方がない事である。
完全に断定できないからこそ、色々な解釈ができるのだから。
とはいえ、この解釈なら特別強引な解釈をしていたり、不可解な点が残ったままにはなっていたりはしないのではないだろうか。
ところで、このページもそうだがこれまで書いたページのタイトルにエルの狂気がどうの、といった感じのものを付けたページがいくつかある。
分かりやすさ、伝わりやすさの観点からそのようにしたのだが、実際のところエルはおかしくなって支離滅裂な行動を取っているわけではない。
それはこれまで説明してきた内容からも明らかだ。
エルは決して狂っているわけではないのだ。
ちょっとばかし生まれ変わっても記憶がそのままだったり、死生観が逆転しちゃったりしてるだけである。
にも関わらず、そんなちょっと変わってるだけの病弱でいたいけな少女を槍玉に上げて、なんだって?
狂ってる、頭のネジが天文学的な本数吹っ飛んでる、そもそもネジなんてあったのか怪しい?
そのようなことをのたまうのは大変、非常に、物凄く、失礼極まりない。
誹謗中傷で訴えられても文句言えないレベルである。
かわいいエルになんたる仕打ちか、正気を疑う。
猛省しなさい。
猛省します。
さて、これで私にとって最大の疑問の答えには辿り着いた。
やりきった感がすごい。
脳内プロットでよくここまで書けたものである。
それだけに、色々記述が抜け落ちていそうな気もするが。
これで終わりにすれば年内に済んでよかったよかったとできそうだが、さすがに中途半端に思える。
最終的には全体のまとめを書くつもりだが、それにはもう何ページか書いた方がよさそうだ。