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個人研究 - Sound Horizon - 今更Elysion考察

エルの狂気の正体・知識編


いよいよクライマックスである。
エルが抱える狂気の正体に迫る。

これまでに得たエルについての情報を、大まかにまとめると以下の通りだ。

これらの不可解な行動の理由、不可解な知識の出所。
どのように考えれば、無理なくまとめることができるだろうか。


というわけで早速説明に入るが、まずは前提から。

仮面の男が死後に考えた可能性、生まれ変わりだが、これはおそらく実在したのだ。
根拠は2つある。

1つは「エルの絵本【魔女とラフレンツェ】」の歌詞だ。

流転こそ万物の基本、流れる以上時もまた然り。

流転というのは少々難しい言葉だが、移り変わることや、仏教の言葉で生死を繰り返すことを指すらしい。
仏教云々言い出したら、作品外の情報になりそうなのでレギュレーションに抵触してしまいそうだが。
それに、言葉が難しかったので意味自体ちょっと調べてしまったし。

もう1つは「エルの絵本【笛吹き男とパレード】」のセリフだ。

やぁ友よ、幸薄き隣人たちよ。
我等はこの世界という鎖から解き放たれた。
来る者は拒まないが去る者は決して赦さない。
仮初めの終焉、楽園パレードへようこそ。

この世界から解き放たれたと言ってる辺り、これは死後の世界の出来事である。
死後の世界だから終わり、終焉、それは分かる。
しかしそれが仮初めとはどういうことだろうか。

終焉だがこれは一時的なものに過ぎず、まだ先がある。
死の先にあるもの、生まれ変わりはその可能性の1つとして考えられるはずだ。
いずれまた生まれる、また始まるが、死は一応、今生の終わり。

この2つはどちらも絵本であるため、絵本のみの設定である可能性が、というような話は前にも出たな。
前と同じく、表現が存在するため作中に概念が存在する可能性はあるはずである。


死ぬと死後の世界に行く。
生前罪を犯していなければ天国のような場所、犯していれば地獄のような場所。
それぞれの世界でどのようなことがあるのか、詳細は不明だ。
その世界を経た上で、最終的には生まれ変わりが起き、新たな肉体に宿り、また生まれる。
その際、前世の記憶は死後の世界のことも含めて全て失い、肉体も精神もまっさらな状態で生まれて来る。

これが作中の生命のサイクルだと考えられる。
分かる範囲だけ見れば、現実と大して違いはないのだ。

だが、このサイクルに異常が生じている人物が1人だけいる。
言うまでもないと思うが、エルのことである。


エルは死後の世界のことを知っている。
それはなぜか。
簡単な話で、実際に行ったことがあるからである。

いつ行ったのかだが、臨死体験をしたことがあるとか、そういう話ではない。
生まれ変わりがあるとすれば、エルがエルとして生まれて来る前にいる場所は当然死後の世界だ。
その時のことを覚えていたのである。

生まれて来る段階で記憶がリセットされるわけだから、死後の世界のことなんて覚えていられるはずがないと思うかもしれない。
実際、ほぼ全ての人はそうだろう。
しかしエルに限っては別である。

エルには、生まれ変わる時に発生する記憶のリセットが起きていないのだ。

これがエルの狂気の正体である。
これによって、エルの不可解さ全てに説明がつく。
さすがにこれだけだと説明不足にもほどがあると思うので、細かく説明していく。


どこから説明しようかと考えたが、まずは知識面から説明する。

エルは仮面の男の悪行を知っていた。
知っていたからこそ、死後仮面の男を追って地獄へ行くことができたのだ。

いや、本当に知っていたのだろうか。
仮面の男から教えてもらえないだろうことは前にも述べた。
そして、生まれ変わりを経ても記憶がリセットされていないとしても、それが仮面の男の悪行を知ることにつながるとは考えにくい。


私が思うに、死後仮面の男を追って地獄へ行くという行動、これは経験則である。

エルが弱い体で生まれ、父親と結ばれるというような流れ、これはおそらく初めてのことではないのだ。
「エルの楽園[→side:E→]」の冒頭などで、楽園の扉が開かれるのは幾度目かであると言われている。
よって初めてのことではないのだろう。

結ばれるまでの流れが全く同じとは考えにくい。
因果関係は不明だが、エルは弱い体で生まれてくるとする。
結ばれる相手が自身の父親であるかどうかも不明だが、ともかく誰か男と結ばれる。
男はエルの治療のために、罪を犯してまで金を稼ぎ、最終的に男とエルは死に至る。
そしてエルは死に際して、死後も愛した男と一緒にいたいがため、男がいるはずの天国へ向かう。
そのような流れが、1回はあったはずだ。

だが男は天国にはいない。
エルは絶望したことだろう。
そういう経験を覚えていたら、それも1回ではなく、何回か経験したらどうだろうか。
エルの記憶が生まれ変わりでリセットされないなら、その経験を覚えていることが可能である。

その結果、因果関係を理解していなかったとしても、死の際に天使の手を取らず、地獄へ行くという選択肢ができてもおかしくはない。
そして実際、天使の手を取らずに地獄に行くことで愛する人と再会できた。
そういう経験をしたなら、1回ではなく、何回か経験したなら。
今後、天国へ行くという選択肢自体、消えてしまうのではないだろうか。

エルには、天国へ行っても愛する人がいないことは分かり切っていたのだ。
なぜいないのかを正確には理解していないかもしれない。
それでも、何度も繰り返した経験から、エルはそういうものだと理解したのだ。

死の際に天使の手を取らなかったどころか、気付きもしなかったのはこのためである。
何度も経験し、手を取っては愛する人と一緒にいられないと知っていたのだ。
そして、もはやその手に興味すらなくなっていたのである。


次は、エルは自身の出生の秘密を知っていたのか。
これもやはり、エルが知っているとは考えにくい。
理由は大体仮面の悪行の件と同じである。

そもそもの問題は、「エルの絵本【魔女とラフレンツェ】」の内容がエルの出生と似ていることである。
そしてその似ている理由だが、言ってしまうとこれは偶然である。
【魔女とラフレンツェ】の内容とエルの出生に、関連性は全くない。
では【魔女とラフレンツェ】の内容は一体なんなのか。


おそらく、これはエルにとって一番最初の記憶である。
エルの前世を辿っていくことで、【魔女とラフレンツェ】に登場する人物に行き着くのだ。

【魔女とラフレンツェ】において、ラフレンツェはオルフェウスに裏切られた代償として、残酷な呪いを歌う。
その呪いはどんなものだったのだろうか。

思うに、これこそがエルの生命のサイクルを狂わせるものだったのだろう。
その結果、エルは生まれ変わっても記憶がリセットされなくなった。
そう、エルの、何世前かは不明だが、記憶で辿れる最初の人物はエウリディケである。

ラフレンツェはオルフェウスに呪いをかけたのでは、と思うかもしれない。
しかしながら、歌詞からも分かるがラフレンツェはかなり独占欲が強そうである。
そんな彼女が、裏切られたからと言ってオルフェウスに嫌われるようなことをするだろうか。
むしろ、オルフェウスが本当に愛している人物に嫉妬し、その人物に呪いをかけた、と考えるべきではないだろうか。

呪いの結果、その人物には生まれ変わりによる記憶のリセットが起きなくなる。
それで精神がおかしくなってしまえば、いかにその人物が美しかろうと、誰も寄り付かなくなる。
ラフレンツェの狙いはそれである。
今後永劫に、生まれ変わっても誰からも愛されなくなることを狙ったのだ。
オノレラフレンツェ。


しかし、ここまで言っておいてなんだが、これらは推測である。
私ではなく、エルにとって推測なのだ。

エルがエウリディケだったなら、エウリディケは冥府の底におり、そこにオルフェウスが迎えに来る。
実際に経験できるのはこれだけである。
ラフレンツェには会ったこともないし、そもそも実在しているのかどうかも分からない。

自身が過去にエウリディケだった、そしてオルフェウスという恋人がいたという記憶がある。
その上で、【魔女とラフレンツェ】のような絵本を読んだら、エルはどう思うだろうか。
おとぎ話とは言え、自分にとってのルーツであると考えても不思議はない。

ラフレンツェは呪ったつもりだろうが、エルからすればこの力のおかげで死後、愛した相手と一緒にいられるのだ。
憎んでいないどころか、むしろ感謝しているのではないだろうか。
本当に呪いの影響で発生した力なのか、本当にあった出来事なのかは分からないが。

もしかしたら、エルの体が弱いのもこの呪いが影響しているかもしれない。
体を弱くする呪いというわけではない。
生まれ変わってもなお、記憶がリセットされない力。
この力が人の身には過ぎる代物であり、力を宿す人の肉体に悪影響を与えてしまうのだ。
残念ながら根拠はないが。


「エルの絵本【笛吹き男とパレード】」についても簡単に触れておこう。

おそらく、エルは前世、あるいはその前も、地獄に自身の愛した人がいると分かってからは再会後にパレードをしていたのではないだろうか。
弱い肉体からも解放され、愛した人とおもしろおかしくパレードをする。
それがエルにとって、何よりも楽しかったのだ。


エルの不可解な知識に関してまとめると、こんなところである。
根源にあるのは、生まれ変わりを経ても記憶が保持されていることだ。
全てを完全に覚えているわけではなく、自然な忘却はあるだろう。
それでも記憶がリセットされていないとすれば、知識に関しては大体説明がつく。

この調子で不可解な行動についても説明したいところだが、ここからでは長くなりすぎる。
それについては次のページで。


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