StarDustに登場する女に、仮面の男はエルの面影を見出した。
女のどこにその面影を見たのか述べる前に、まずは話の流れを簡潔に整理する。
女はある男と付き合っていた。
2人は激しく愛し合っており、他人が聞いたら呆れてしまうほどの歯が浮くような言葉を交しては幸せを感じているような間柄である。
だがある日、女は彼が見知らぬ女とお揃いの白い服を着て幸せそうに寄り添い歩いているところを偶然目撃してしまう。
彼に裏切られたと思った女は、衝動的に彼を銃で撃ち殺してしまう。
彼の白い服は鮮血に染まり、女は赤で統一された自分の装いとお揃いになったことを喜ぶ。
しかし真っ赤に染まった彼の服は、血液の酸化によりみるみる黒ずんでいく。
それを見た女は、もう永遠に彼と結ばれないことを悟り、絶望する。
そして、彼を撃ち殺した銃を、今度は自分自身に向けて引き金を引いてしまう。
女が彼を撃ち殺してしまったのは、彼の裏切りが原因である。
しかし、本当に彼は女を裏切っていたのだろうか。
見知らぬ女とお揃いの白い服を着て、幸せそうに寄り添い歩いていた、というのが根拠だが、それだけで裏切っていると断定するのは早計である。
例えば、見知らぬ女というのが彼と仲の良い家族である可能性がある。
妹、姉、従姉妹、あるいは年の若い母親など。
女が彼のことをどれだけ知っているのかについては情報がないため、女が彼の家族と面識がなければ十分あり得る。
そのような展開は、ラブコメ漫画などでありがちな展開だろう。
彼は家族と買い物かなんかに行くために一緒に歩いていただけで、女を裏切ってはいなかったわけである。
お揃いの服を着ていたのは偶然か、それだけ仲が良いのか、とにかくその程度の話だ。
逆に彼の裏切りを決定付けるなら、服装がポイントになる。
お揃いの白い服とあるが、具体的にはなんだったのか。
もし白のタキシードとウェディングドレスだったなら、つまり女は彼と見知らぬ女の結婚式を目撃してしまったことになる。
女が裏切られたと感じるのも当然と言えるだろう。
分かりやすいし、私としてはこちらで考えたいところだ。
しかしながら、彼の裏切りというのは罪にはならないのだろうか。
何を気にしているのかと言えば、彼が死んだ後どうなるか、である。
もし彼の裏切りが地獄に堕ちるほどの罪だったとしたら、女は地獄で彼と再会できることになる。
その場合、楽園パレードに加わらなさそう、他の曲の少女たちは大切な人と引き離されているのに彼女だけ?など、少々違和感がある。
であれば、彼は女を裏切っておらず、潔白の身だったと考えた方がしっくり来る。
女がそのような勘違いをしてしまったのも、星々に狂わされた結果、と言ったところか。
彼を撃ち殺した後、女は、いつか星になれるなら屑でも構わない、ねぇ私輝いてる?というようなことを言う。
屑でも構わないとか言い出す辺り、彼を撃った後に彼自身、もしくは近くにいたかもしれない見知らぬ女にこの屑、とでも言われたのだろうか。
あるいは自身の行動を客観視して自虐的にそう思ったのか。
そんなことより気になるのは、屑でも構わない、より後のセリフである。
自分で撃ったのだからそれほどおかしいとは思わないが、彼のこと全く気遣っていない、というかまるで見えていない。
自身の非道な行動を美化し、自身が輝いているか問う。
星々というのはこれほどまで人を狂わせるものなのだろうか。
で、このような言動は、序盤の歌詞の内容が女自身に返ってきていないだろうか。
女は物言わぬ可愛いだけの人形じゃない、ちっぽけな自尊心を見たす為の道具じゃない、などなど。
女が彼に対して言った、もしくは思った内容なんだろうが、見事に自分自身に突き刺さっているように見える。
人が誰かを言葉で攻撃する時、自分にとって言われたくないことを言ってしまうと言うが、これもそういうことなのだろうか。
さて、仮面の男はこの女のどこにエルの面影を見たのだろうか。
ArkやSacrificeと同じく、ポイントはセリフ…ではなく、StarDustの場合は歌詞である。
これと似たようなセリフを、エルも発していた可能性がある。
だが、それが意味するところはStarDustの女とはまるで違う。
StarDustの女は、見た目がお揃いになれたことに幸せを感じている。
一方のエルは、仮面の男と揃って死んで行けることに対して幸せを感じている。
しかし、刃物で刺され死にかけの仮面の男と、病気かなにかで死にかけのエル。
死にかけというのは一致しているが、これはお揃いと言えるのだろうか。
そう考えてみると、死の間際にエルが取った行動がもう1つありそうである。
少し疑問だったのだ。
いかにエルが継続的な治療が必要な体であるとはいえ、治療をやめた程度でそんなにすぐ死ねるものなのか、と。
今にも死んでしまいそうな仮面の男を見て、自分もすぐ死ぬために取った行動があるのではないだろうか。
つまりそれが仮面の男とお揃いになった、である。
背中を刺された仮面の男と同じように、自分自身に刃物を突き刺したのだ。
さすがに自分で自分の背中を刺すなんて、器用なことはしていないだろうが。
そんな都合良く刃物なんてあったのかと思う人もいるかもしれないが、ある。
都合良く、仮面の男の背中に刺さっているではないか。
それを引き抜いて自分に突き刺したのだ。
エルとしては揃って死んで行けることがうれしくて発したセリフだろうが、仮面の男からしたらまるで訳が分からないだろう。
特にエルが自分自身に刃物を突き刺した事なんかは、仮面の男が死の間際に泣く原因の1つになっていそうである。
そんな感じで、仮面の男がStarDustの女にエルの面影を見ても無理はない。
真っ赤な衣装、真っ赤な洋靴、真っ赤な口紅、真っ赤な薔薇。
すれ違う男達は誰もが振り返ると言うが、振り返る原因は右手の「約束」のせいなのではないだろうか。
その「約束」というのが拳銃だとしたら、男じゃなくて女でも振り返るだろう。
私でも振り返る、二度見する、そして一目散に逃げ出す。
一歩後ずさり何か、「ヒエー」とか叫びながら、深まりゆく闇の彼方へと走り去ってゆく。